テニス肘(上腕骨外側上顆炎)と変形性肘関節症の周辺

テニス肘の歴史

本疾患は、1883年にMajorがlawn-tennis elbowと名付けて以来テニス肘と呼ばれる。(肘診療マニュアル p64、石井清一、医歯薬出版 1991)

lawn tennisはテニスの正式名称で、テニスが芝生のコートで行われることが多いからですね。

上腕骨外側上顆炎とテニス肘

手首をそらす筋肉(短橈側手根伸筋)が肘から始まる部分(上腕骨外側)の痛みと圧痛のある状態を上腕骨外側上顆炎、テニス肘といいます。

「上腕骨」外側上顆炎と言われますが、骨である上腕骨外側上顆ではなく、その少し手側の腱の部分に病変と痛みがあります。

典型的な場合、凸部(外上顆)の1cm手側(遠位)の筋の付け根(伸筋起始)に押さえての痛み(圧痛)があります。

日本整形外科学会HPより引用

病名には「炎」とついていますが外上顆炎を顕微鏡で調べると、実態は、炎症ではなくて、組織の老化と微小血管の増加がみられます。

肘外側と腕の痛みは徐々に始まります。物を持ち上げるとか、ドライバーを回すとか、テニスのバックハンドとかの手首を反らす動きで痛みが出ます。

物を手の平下向きで持ち上げると痛みが出ます。

痛みはだんだん強くなって行き、じっとしていても痛みを感じるようになります。

肘への打撲や、急に強い力を使って起きることもあります。

テニス肘を早く治すために:
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)はなぜ治りにくいのか

ステロイド注射を繰り返しても治らない

テニス肘と診断され、ステロイド注射を繰り返しても治らない方がよく当院を受診されます。
その状況は私が開業した1994年当時から、今も残念ながらあまり変わっていません。

その分析と、対策を書いていきます。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の診断

問題 点その1  テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の診断について

日本整形外科学会のHP
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/lateral_epicondylitis.html

手の外科シリーズのパンフレット
https://www.jssh.or.jp/ippan/sikkan/pdf/7tennis.pdf
のテニス肘(上腕骨外側上顆炎)の説明から引用します。

外来で簡単に行える疼痛を誘発する試験で診断します。
以下の3つの検査が一般に用いられています。
いずれの検査でも肘外側から前腕にかけての痛みが誘発されたら、テニス肘と診断します。
1. Thomsenテスト
検者は手首(手関節)を曲げるようにして、患者さんには肘を伸ばしたまま検者の力に抵抗して手首(手関節)を伸ばしてもらう。
2. Chairテスト
患者さんに肘を伸ばしたまま手で椅子を持ち上げてもらう。
3. 中指伸展テスト
検者が中指を上から押さえるのに抵抗して、患者さんに肘を伸ばしたまま中指を伸ばしてもらう。

肘の外側の痛みというと、多くの整形外科医はテニス肘(上腕骨外側上顆炎)をまず思い浮かべます。
そこで、いきなり、前記のテストをします。

結果が陽性なら、即、テニス肘、上腕骨外側上顆炎と診断してしまいます。

それが、現在の整形外科医の問題だと思います。

というのは、起こっていることが、上腕骨外側上顆炎だけでないこともあるからです。

思考停止状態といえます。

複数の病態がありえます。

たとえば、変形性肘関節症。上腕骨外側上顆炎。上腕骨内側上顆炎。

こんな組み合わせは、よく見かけます。

私は、3つの検査の前に、より広く肘の異常を診るための診察をします。
肘の動き、動作での痛みの誘発、肘を中心にした圧痛点の検索

その上で、上記テストも行います。

そうでないと、病状、正確な病態が見落とされるのではないかと思います。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の治療

問題点その2  テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の治療について

日本整形外科学会のHP、手の外科シリーズのパンフレットのテニス肘(上腕骨外上顆炎)の説明では

ストレッチ、
作業を控える、
湿布や外用薬を使用
局所麻酔薬とステロイドの注射をします。
テニス肘用のバンド
手術

が挙げられています。

これも、私が開業した、1994年以前のテニス肘(上腕骨外側上顆炎)の情報と何ら変わっていません。

実は、その後、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)について、新しい多くの情報が発表されています。

学会のHPの情報でさえ、古いままです。

テニス肘、上腕骨外側上顆炎の治療 ステロイド注射と理学療法(リハビリテーション)

Essentials of musculoskeletal care (AAOS)より引用

テニス肘、上腕骨外側上顆炎の治療 ステロイド注射と理学療法(リハビリテーション)

テニス肘、上腕骨外側上顆炎の治療として

長期的には、ステロイド注射よりも、理学療法(リハビリテーション)が有効、という報告がありました。

2013 米国医学会誌に、短期的には(治療4週後では) ステロイド注射は有効。

しかし、1年後には、ステロイド注射は改善率は低く、再発率が54%。

半数以上が再発です。

一方、テニス肘、上腕骨外側上顆炎の治療では確かに、ステロイド注射なしの理学療法が有効なのですが、理学療法は 理学療法なしと比べて 39% vs 10%, の有効率。

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/1568252
39%ということは決して理学療法だけでは十分とはいえません。

新しい情報、知識が、現実の診療に反映されていないところに、日本の整形外科医のテニス肘(上腕骨外側上顆炎)への関心の低さがあると思います。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の病態、治療のupdateが必要です。

2019年10月にテニス肘の手術以外の治療に関する研究結果が報告されました。

Am J Sports Med. 2019 Oct;47(12):3019-3029.

要点は

治療開始4週後の短期的にはステロイド注射のみが痛みを改善したが、長期的にプラセボより悪化した。

ほとんどの患者は何もしなくても短期で痛みが改善する。

短期では治療しても少ししか痛みが減らないし、いろいろな治療の副作用がある。

最初の4週間の治療にあたって、治療するか、経過観察とするか、患者特有の要因を医師は考える必要がある。

テニス肘の患者特有の問題とは

この患者特有の要因とは、一つは個人個人の病態を正確に知ること、他は、真の原因である、患者の肘の使い方、負担、誤用を知る必要があるということだと考えます。

https://www.ryopursuitorthop.com/patient-specific-factors-for-tennis-elbow/

早く治そう テニス肘! 研究熱心な整形外科医の治療法 詳しくは こちら

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)の治療法としてのPRP

テニス肘(上腕骨外上顆炎)の治療法として、PRP(Platelet-Rich Plasma)が最近話題になっています。
PRPとは多血小板血漿のことです。
PRPは血小板を濃縮したもので、新しい組織や細胞の成長を促す栄養が豊富に含まれています。

慢性化した患部を急性の状態に戻すことにより、自己治癒力を再活性化する方法です。

治療ではまず、患者本人から採血し、遠心分離機でPRPを作成します。
次に、患部にPRPを注射します。
この濃縮血小板の注射により、治癒(修復)過程が停滞した患部をに炎症を起こさせます。
炎症は、新たな治癒過程を起こさせます。
炎症が起きた後は、栄養を豊富に含んだPRPが再生を促します。
血小板はもともと体内にある成分ですが、高濃度の血小板を注射することで、治癒を加速することが期待できます。

米食品医薬品局(FDA)は、慢性アキレス腱炎、足底腱膜炎、テニス肘(上腕骨外上顆炎)などへのPRP療法を認めています。

手術のように、患部を切除してしまうよりは、文化的方法と言えます。

しかし、この方法の限界は、テニス肘、上腕骨外側上顆炎について、外側上顆だけが疾患、痛みの原因と考えていることです。

先に書きましたが、テニス肘、上腕骨外側上顆炎と診断されても、痛みの原因が「外側上顆以外にもある」ことが多々あります。

テニス肘、上腕骨外側上顆炎では、総合的に痛みの原因部位を探して治療しないと、痛みが残ってしまいます。

テニスをしないのにテニス肘(上腕骨外側上顆炎)??

日本整形外科学会誌 86 (3) 2012 S327に
聖マリアンナ医大の別府 諸兄 先生が

テニス肘と称されるが実際のスポーツ関連は5%以下に過ぎない。
一般人の40-60歳に多い。

と報告されています。

このようにテニス肘(上腕骨外側上顆炎)は、テニスだけが原因ではありません。

手や肘の使い方と、その負担、肘の老化の悪循環が背景にあります。

上の絵のような若い女性にはほとんど起こりません。

テニス肘とゴルフ肘、野球肘

一般にテニス肘は肘の外側の痛み、ゴルフ肘、野球肘は肘の内側の痛みと言われてきました。

しかし、ゴルフや野球でも、テニス肘と同じことが起こります。

ゴルフ肘では、特有の肘の使い方、フォームの問題があります。

そこでアレクサンダー・テクニークを参考にしたフォームの指導、つまり肩、肘、手首の使い方を指導します。

実は私はゴルフはしないのですが、フォームの問題点は、解剖学的にわかるので、指導が可能です。多くの方が、スコアが上がったと不思議がったり、喜ばれます。

難治性テニス肘、難治性上腕骨外側上顆炎

これは、最近、ごく1部の整形外科医に認識されていますが、
まだまだ一般には知られていません。

6カ月以上の保存療法(手術以外の治療法)に抵抗する場合、とされている場合もあります。

40代、50代、60代、70代と、高齢者に見られます。
テニスやゴルフなどのスポーツをしていない方にも起こります。

治りにくい原因、痛みが続く本当の原因が、筋肉だけではなく、
実は、関節、神経の異常にあります。

これは、肘に関心を持ち、ていねいな診察をしないとわかりません。

また、保存療法を十分知らないと、手をこまねいて6カ月が過ぎてしまいます。

本当に テニス肘?難治性テニス肘への対策とは? 研究熱心な整形外科医の治療法はこちら

私の考える テニス肘、上腕骨外上顆炎の本質、病態とは?:関節症とトリガーポイント

以下は専門的内容となります。

日整会誌 86 (3) 2012 S327に
聖マリアンナ医大 整形外科 別府 諸兄先生は

テニス肘の病因として

骨付着部症(enthsopathy) 、
伸筋群起始の断裂、
骨膜炎、
側副靭帯や輪状靭帯の刺激、
滑液包炎、
滑膜炎、
滑膜ひだ、
虚血性壊死、
石灰化、
橈骨頭の離断性骨軟骨炎

を上げられています。

日整会誌 86 (3) 2012 S629 に
札幌医大の大木豪介先生が

関節鏡視下手術を行い

難治性テニス肘、上腕骨外上顆炎で

上腕骨小頭の軟骨損傷65% 橈骨頭の軟骨損傷82% ともに外側。軟骨損傷は軽症が多い。

高年齢が橈骨頭軟骨損傷と相関。

を観察されています。

また

難治性テニス肘、上腕骨外上顆炎では

MRIで観察すると、伸筋群の付け根に浮腫があり、肘関節水症がみられることが多いとういう事実があります。(自験例)

従って 私は

純粋に筋だけに起こっているものと、肘関節炎から起こるものと二つあり、

どちらも、周囲の筋、神経に影響を及ぼし

トリガーポイント(痛点、ファシアの異常)を作ってきて、両者が慢性疼痛化すると考えています。

所見が筋だけにあっても、過去に関節炎があったことは否定できません。

ですから

まず 難治性テニス肘、上腕骨外側上顆炎では

関節症としての保存療法の徹底が必要です。

肘の回外過伸展では、橈骨頭と、外上顆、上腕骨小頭が、外側で衝突し、関節炎、軟骨損傷を起こします。

内上顆にも牽引緊張がかかり、内上顆での起始部の微小損傷による痛みの原因にもなります。

このメカニズムを知り原因動作の分析をする。そして、使い方の助言。

さらに神経と筋によってできるトリガーポイントへの対応が必要だと思います。

付着部炎といわれますが、筋起始部には神経終末が多く、トリガーポイントができやすい。

ECRBを中心とした伸筋群で、起始が外側上顆ですし、その遠位、外上顆遠位4-6cmのmotor pointにも、トリガーポイントができる。

ECRL BRにもTPはできます。前者は、外上顆遠位7-8cm、後者は肘伸展して、肘前面の肘関節から2cm遠位の範囲です。

ECRB ECRL BRのトリガーポイント形成には橈骨神経が関与していると考えています。回外筋症候群とも言えます。

さらに、肘近位の三頭筋や上腕筋(筋皮神経)、内上顆にも
トリガーポイントができます。

ECRB起始だけを考えていては、テニス肘、上腕骨外上顆炎への対応としては、不十分だと考えます。

病名にあてはめをしないで、その患者さんに起こっている病態をていねいに探る必要があります。

2018年の日整会誌(J. Jpn. Orthop. Assoc.92(8) 2018, S1630)で、和田卓郎先生が、

上腕骨外側上顆炎の病態として、病変部位を従来のECRB腱付着部から、腕橈関節も含めたラップアラウンド構造と捉えると理解しやすい

と発表されていますが、ようやくそのような認識がされるようになってきたと言えます。

テニス肘(上腕骨外側上顆炎)を治す、完治とは

もちろん、病的状態が治ることが第一です。

しかし、同時に、それを起こす原因である、「無理な使い方、誤った使い方」が、自覚され、それが正される必要があります。

それをしなければ、早晩再発してくるか、新たな問題が起こります。

ですから、完治とは、使い方の完治も必要なのです。

私は、原因となる動作を丹念に問診します。

そして、その動作を実際に見せていただきます。

すると、その人の使い方の問題が見えてきます。

無理のない使い方を、助言します。

それが最も基本的かつ重要な治療だと考えます。

整形外科の病気とされるものの多くは、ほとんどが身体の使い方の誤りで起きると感じています。生活習慣にその原因があり、その意味では、生活習慣病とも言えます。

それを治すために、とても参考になるのが、アレクサンダー・テクニークです。

私の治療について

私は現在、下記の治療を行っています。

0. 肘の使い方の検討と指導 フォーム改良のアドバイス アレクサンダー・テクニークを参考にして。
1. 湿布薬でなく、必要に応じてNSAIDと漢方薬
2. 注射は、ステロイドは使わず、必要であれば、生理的食塩水と少量の局所麻酔薬を使用したエコーガイド下ファシアリリース
3.リハビリテーション:ストレッチと物理療法
4. バンドは勧めていません。
5. 手術は不要と考えています。

テニス肘に悩んでいる方、私の治療について、もっと詳しく知りたい方はこちらへ

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする